「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!世界一奇妙なショーの始まりだよ!」 大人5人が入ればいっぱいになってしまいそうなテントの前で、モノクロの服を着た道化役者が声を張り上げた。 道行く人は、なんだなんだと足を止め、テントの中を覗き込む。 すぐに人だかりになって、ささやき呟く人の群れ。 そこへ大人の隙間をくぐり抜けた子どもが4人―――― 「さてさて。欲に駆られた大人たちを退けて、愚かな道化の前へおいでなさった小さな勇者たち」 道化は、男の子3人と女の子1人をテントの前へ手招いた。 道化が紳士のような動作で長い金髪の女の子の右手を取ると、彼の左手にどこからか花が現れた。 彼の客寄せ用の声は、子ども達へ話しかける声に変わった。 「君たちは、本物の勇者になれそうだ」 「女の子でも?」 「もちろんですよ、お嬢さん。花をどうぞ。これがあなたの剣となりましょう」 「まあ。ありがとう道化師さん!でも、ぜんぜん剣に見えないわ」 「お嬢さん、それはこれから剣になるのです。さあ」 彼はテントを手で示した。中は何もないような闇。 それを黒髪の男の子が覗き込む。 「なんにもない」 「いいえ。その中には試練があるのです」 続いて覗き込んだ、赤茶の髪の男の子が道化師に言った。 「試練ってなんだよ」 「君たちを勇者にするための、試練でございますよ」 モノクロの道化は大げさな動作で両腕を広げ、再び客寄せの声に戻った。 「さあ、こちらの小さき勇者たち。果たして無事にこのテントから帰ってこれるのでしょうか!」 さらに大きく腕を広げ、大人たちに向かって叫ぶ。 「皆さん!どうかお見守りください!この子たちが勇気を持ち帰れますように!」 子ども達の背中をそっと押し、テントに入るよう促す。 道化は、ずっと黙っていた薄茶の髪の男の子に向かって言った。 男の子は両腕に持っていた本を強く抱きしめた。 「君は本を読むのが好きなんだね?その知恵を勇気に変えるんだ」 すると男の子の眼鏡の奥にあった怯えの色が薄くなった。 「……うん」 小さく答えると、テントの入口で待っていた3人の所へ駆け出した。 4人の子ども達は横に並び、光を背に闇を見つめる。 「いこう」 そう言ったのは眼鏡の少年。 臆病な子の勇気ある一言は、何倍にもなって3人に伝染する。 誰となく手を繋ぎ、底知れない闇へ向かって踏み出した。 いってらっしゃい見てらっしゃい。 この子たちがその手離さず勇気を手にできますように。 |