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 その場所は、むき出しのコンクリートに蛍光灯が反射していた。
 私は周囲を見回すと首に違和感を覚え、手でその原因を探った。
 赤い糸が絡み付いている。
 その糸はいくら手繰り寄せても先端を現さない。さらに、首から外そうとすればするほど絡み付いてきた。
 闇雲に外そうとしていると、背後に気配を感じた。


 「やあ」


 私と同じく、首に赤い糸を絡ませたその人物は、力なく笑い、挨拶をした。


 「君も捕まったんだね」


 私は、捕まったという状況がまだ理解できておらず、その質問は無視した。代わりに、この鬱陶しい糸が何なのかを尋ねた。


 「私も何度も外そうとしたんだけどね、」


 首から伸びている糸を指先に絡めるとその人物は続けた。


 「首に絡むわ、無限に伸び続けるわで、どうにも手に負えないんだよ。何なのかは私にもわからない」


 どうやら、この赤い糸は無限に続いているらしい。
 コンクリートで囲まれた灰色の廊下の中央で、この状況について話した。
 まずは彼が何故この状況に陥ったかを聞くことにした。


 「私は写真を撮りに、山に出かけた。紅葉は今が見ごろだからね。私は木々に詳しくないけれど、モミジやらイチョウやらが綺麗に色づいていたよ。私は夢中になってその赤や黄に染まった山を撮っていた。昼から行って、いつのまにか夕方なっていた。夕日が真っ赤に燃えていたよ。モミジがさらに赤く見えてね、私はその景色をレンズに収めようとしたんだ。恐ろしく赤い世界を撮ろうとカメラに目を当てて、覗いた。その瞬間、私は気を失ったんだ。そして気が付いたら、ここにいた」


 どれくらいこの場所にいたのか、それを聞くと彼は、窓も時計もなく、正確な期間はわからないが、感覚的には2日ほどらしい。
 空腹は覚えないのだろうか。彼はすこし歩き疲れていたようだったが、それ以外は特に目立った所もなく、健康に見えた。
 私が彼を見ていると、ああ、と言って説明してくれた。


 「ここには何も無いけど、廊下歩いていくと色々落ちているんだよ。というより、置いてあるという感じかな」


 彼が言うには、ペットボトルに入った水や、コンビニで売っているパンなど空腹を満たすものが所々に置いてあるらしい。さらには、


 「君に会う、何時間か前には羽毛布団を見つけたよ。私はそれで睡眠をとった」

 ――と言う事だそうだ。
 ここは一体何なのだろう。私はふと、軟禁されているのではと考えた。あり得る。一応寝る場所も食事もある。糸が首に巻き付いてはいるが、拘束と言えるほどでもない。死ぬようなことはないだろう。
 誰がどのような目的で、私達に糸を巻き、ここに放り込んだのか、私はそれが気になった。


 私達は、その場に座り込んでさらに話し込んだ。
 しばらくすると、足音が近づいてきた。曲りくねった廊下の奥から聞こえてくる。