ある時ある国にある男女がおりました。 男は石の細工師で名をダインと言います。女の名はシャンラ。彼女は国に仕える騎士団長の娘でした。 ダインとシャンラは恋人同士でした。 しかし、彼女の父親は執拗なまでに家柄に厳しい人だったのです。 シャンラの父親は、あまり家柄がよくないダインに自分の娘に二度と会うなと脅しました。 ですが恋人達は決して離れることはできません。 二人は国のはずれにある、木々に囲まれた湖でこっそり会うことにしました。 約束は姿の隠れる新月と三日月の夜に行われました。 それから四度目の三日月の時でした。 シャンラの父親は気づいてしまったのです。彼女が新月や三日月の時にはいつもより機嫌が良いことに。 父親は剣を携えてシャンラの後をつけました。 国はずれの、木々に囲まれた湖までやってきました。 ダインはシャンラを見ると、嬉しさとともに彼女を抱きしめました。シャンラも彼に喜びを伝えました。 その様子を見たシャンラの父親はとても怒り、ダインに対する憎悪は激しく燃えました。男は、剣を取り出しました。 三日月の微かな光を受けた剣がきらめきました。 それをダインは見逃しませんでした。ダインは彼女を背の方にやると、その剣を腹に受けました。 シャンラはダインが膝をつき、血に塗れた剣を持つ自分の父親を見て、ようやく何が起きたのかわかりました。 ダインは腹から血を流しながらも立ち上がろうとしました。父親はとどめを刺そうと剣を構えました。 剣は、再び月の微光を受け、ダインに向かって突き出されました。 そのときです。 シャンラはダインの前に飛び出し、剣はシャンラの体を貫きました。 しかし、彼女が彼をかばったものの、三人の距離はあまりにも短すぎました。 シャンラの体を突き抜けた剣はダインの胸へと刺さりました。ダインはシャンラを優しく抱きました。 まだ二人とも息がありましたが、あとわずかでその魂は身体を離れるでしょう。 二人の血が剣から滴り落ちました。ゆっくりと二本の筋を描き、湖で混ざりあいました。 彼と彼女は、湖で一つになりました。 シャンラの父親は娘を殺したショックで、自らもを命を絶とうと二人を繋いだ剣を引き抜こうとしました。 けれども、いくら引いても抜けません。それでは湖に身投げしようと近づきました。その途端、二人の血が混ざった湖が透き通った青色に光り、父親を拒絶しました。 父親は、その光に寄り添ったダインとシャンラの姿を見ました。どこか嬉しそうな、そして哀しそうな表情です。 二人の姿は光ににじみ、どこからがダインで、どこからシャンラなのかも分かりませんでした。 彼らの魂は肉体という壁を失うことで、本当に一つになったのでした。 この事件以降、シャンラの父親は娘と石細工師を殺めた罪を咎められ、さまざまな理由で心を病み、落ちぶれていきました。 彼は酒にすがるようになり、酔って馬車の前に飛び出して轢かれて死にました。 一方、木々に囲まれた湖には、たくさんの花が供えられ二人の命と愛に祈りが捧げられました。 祈りに感謝するかのように、魂の溶けた湖は清らかな青色に光るようになりました。 満月の夜の湖には時折ダインとシャンラが月見をしながら愛を語らう姿がありました。 そうした晩の月は、湖よりも淡く青く輝いていました。 二人が生まれ変わり、再び肉体を得るまでその奇跡は続くでしょう。 月が満ち欠けを幾度も繰り返し、命をめぐり、 生が、二人を別つまで。 |