He evolves in daily life.



 冬も終わりの夕方。相沢はバスの中から通っていた小学校を眺めた。児童は帰宅して校内は静まっている。――そのように見えた。
 目を閉じれば、埃っぽいガラス窓に覚えたての『へのへのもへじ』や相合い傘のラクガキが浮かぶ。彼らが日常の中で、いつしか忘れていくものだ。

 相沢は不意に運転手の後ろの座席に同級生の姿をを見つけた。名前は知らない。
 『ココアはやっぱり…』
 『俺は森永じゃねぇよ!』
 以前、見かけた時に慣れた調子で友だちに返していたので、それに似た苗字だと相沢は推測する。


 眺めていると森永(仮)は、窓に息をかけ始めた。すると先ほどまで相沢が空想していた『へのへのもへじ』がガラスに浮かび上がった。
 やっぱりあった。そうでも言うように森永(仮)は口の端を上げた。


 ラクガキはすぐに姿を消したが、確かにそこにある。相沢は、何の事はない、ただ見過ごしていただけだった。ひとつの発見に心をはためかせながら、彼は前方の森永(仮)の挙動を面白そうに見守った。




(原)2010/04/11 (編)2011/12/11